どんな病気があるの?

小児神経伝達物質病ってなに?

小児神経伝達物質病ってなに?

神経はお互いに結合しあうことで神経回路を形成し、その神経回路が複雑に働くことで
ネットワークを形成して私たちは身体を動かしたり知的な活動をしたりしています。
胎児期から乳幼児期の神経細胞が分化してネットワークをつくっていく時期に神経伝達物質の異常があると、こどもの発達に異常がおこります。
小児神経伝達物質病とは、神経伝達物質の生合成・代謝・異化にかかわる何らかの酵素が欠損している先天代謝異常症のひとつです。

ドパミン、ノルエピネフリン、セロトニンの生合成経路と神経伝達物質病

ドパミン等に関連する酵素と神経伝達物質病

  1. 瀬川病、GTPCH欠損症
      GTPCH: GTPシクロヒドロラーゼI
  2. PTPS欠損症
      PTPS:6-ピルボイルテトラヒドロプテリン合成酵素
    SR欠損症
      SR:セピアプテリン還元酵素
    DHPR欠損症
      DHPR:ジヒドロプテリジン還元酵素
  3. TH欠損症
      TH:チロシン水酸化酵素
  4. AADC欠損症
      AADC: 芳香族アミノ酸脱炭酸酵素
  5. MAO欠損症
      MAO: モノアミン酸化酵素
  6. GABAの生合成経路と神経伝達物質病

    GABAに関する酵素と神経伝達物質病

  7. GABA-T欠損症
      GABA-T:GABAトランスアミナーゼ
  8. SSADH欠損症
      SSADH:コハク酸セミアルデヒド脱水酸化酵素

SR欠損症はどんな病気ですか?

SR欠損症は、瀬川病と同様にビオプテリンを合成する酵素のひとつであるセピアプテリン還元酵素が欠損しておこります。遺伝形式は常染色体劣性遺伝をとります。
SR酵素はテトラヒドロビオプテリン(BH4)と呼ばれる分子の産生かかわります。テトラビオプテリンがないと、脳内のドパミン、セロトニンといった神経伝達物質が産生できなくなり、運動障害などの様々な症状を引き起こします。

SR欠損症の症状はどんなものですか?

SR欠損症の症状は顕著な運動・認知機能発達遅滞から軽微な症状まで幅があります。
症状は、乳児期の発達遅滞や筋緊張低下などの非特異的特徴から始まり、だんだんほかの特徴が表れてきます。患者の多くは、朝よりも夕方・夜に症状が悪化し、睡眠によって症状が改善します。

運動障害

運動発達遅滞、筋緊張の低下(体が柔らかい)、ジストニア(異常な姿勢、身体のねじれ)、運動緩徐(動きが遅い)

異常眼球発作

Oculogyric Crisis(OGC)と呼ばれ、ドパミン系の神経伝達物質病の特徴的な症状です。眼球が上下や左右、寄り目などに固定され、緊張や異常な姿勢をともなうこともあります。

自律神経の症状

汗かき、唾液が多い、鼻づまり、体温調節が苦手

精神症状

認知障害、睡眠障害(過眠、入眠障害、睡眠持続障害)

その他

体調の日内変動、睡眠後に元気になる
小頭症
眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)
摂食・言語障害

SR欠損の治療法はありますか?

治療はL-ドパ、カルビドパおよび5ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)が使われます。L-ドパあるいはL-ドパとカルビドパとの併用を低用量から開始し、徐々に増量します。副作用のジスキネジアが表れた時は一旦薬を減らして、ジスキネジアが消えたのち、再度徐々に増量するとよいと言われています。効果は人によって違いますが、L-ドパによる治療はSR欠損症に非常に効果があるとされています。
5-HTPは日本国内では薬として扱われていません。

そのほか、MAO阻害薬、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),メラトニン、ドパミン作動薬、抗コリン薬などが使用されることもあります。

TH欠損症はどんな病気ですか?

TH(チロシン水酸化酵素) は、ドパミンの合成に重要な酵素です。.この酵素が欠損することで、ドパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン、メラトニンの神経伝達物質の生成が阻害されます。先天性の代謝異常で常染色体劣性遺伝の病気です。遺伝子の変異部位により3つの異なる病態があり、重症度が違います。

瀬川病はどんな病気ですか?

小児神経伝達物質病の中で最も早く見つけられた病気で、日本で200人以上の患者さんがいます。
病気の原因は、ビオプテリンという補酵素を合成する酵素のひとつであるGTPCH Iの遺伝子異常で、常染色体優性遺伝という遺伝形式をとります。10歳までに発症することが多いですが、成人発症の報告もあります。男女比は1対4と女性が多いことが特徴です。この原因はまだわかっていません。
同じGTPCH I欠損症で常染色体劣性遺伝の形態をとるものもあります。

瀬川病の症状はどんなものですか?

日内変動のあるドーパ反応型ジストニアが典型です。初期症状は、片方の足の動きが夕方になると悪くなります。ジストニアの症状が他方の下肢や上肢に進展する例もあります。他の症状としては振戦や書痙などが知られており、症状は様々です。そのため、他の疾患と混同されてしまい、正しい診断に至るまで時間がかかることがあります。

瀬川病の治療法はありますか?

瀬川病の多くの症例でドパミンの前駆体であるL-ドーパが症状の改善によく効くことが知られています。
一方、常染色体劣性遺伝の形態をとるGTPCH I欠損症はL-ドーパにあまり反応しなく、副作用に対して脆弱であると言われています。

AADC欠損症はどんな病気ですか?

AADC(芳香族アミノ酸脱炭酸酵素)は、体内でドパミン、セロトニンを生成する時に必要な酵素です。この酵素が欠損することで、ドパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン、メラトニンの神経伝達物質の生成が阻害されます。先天性の代謝異常で常染色体劣性遺伝の病気です。
1990年に初めて報告された疾患で、2021年現在までに200人程度の患者さんが世界で診断されています。

AADC欠損症の症状はどんなものですか?

新生児期に異常眼球運動(oculogyric crisis)と四肢の不随意運動で発症し、精神運動発達が遅れます。重症例では寝たきりで発語のない状態にとどまりますが、独歩と会話が可能な軽症例もあります。
症状はとても多岐にわたります。

異常眼球発作

Oculogyric Crisis(OGC)と呼ばれ、AADC欠損症のもっとも特徴的な症状です。眼球が上下や左右、寄り目などに固定され、緊張や異常な姿勢をともなうこともあります。2,3日に1回発作的におこり、数分から数時間続きます。てんかん発作と間違えられることがありますが、この発作には脳波異常はともなわず、抗痙攣剤も無効とされています。

運動障害

低緊張(体が柔らかいこと)、ジストニア(異常な姿勢、身体のねじれ)、不随意運動、過緊張(手足を突っ張るなど)、自発運動が乏しい

自律神経の症状

汗かき、唾液が多い、鼻づまり、便秘または下痢、体温調節が苦手

精神症状

認知障害、気分が変わりやすい、睡眠障害

その他

体調の日内変動、睡眠後に元気になる
眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)
摂食・言語障害
低血糖

AADC欠損症の治療法はありますか?

投薬による治療は、重症例ではわずかな効果しか期待できません。一方、L-ドーパやモノアミン酸化酵素阻害剤が良く効き、寝たきりから歩行が可能になった例もあります。
日本では2015年に臨床試験として遺伝子治療が開始されました。2021年5月現在、8 人のお子さんが治療を受け、運動機能や自律神経症状にかなりの改善がみられています。

主な治療薬

ドパミン作動薬(神経伝達物質ドパミンの代わりに神経細胞の受容体を刺激します)
ビタミンB6(AADC酵素の働きを助ける補酵素です)
MAO阻害薬(ドパミンが分解されるのを防ぎます)
メラトニン、メラトベル(睡眠障害を緩和します)

そのほか、葉酸、抗コリン作動薬、セロトニン作動薬などが組み合わせて用いられますが、併用禁忌の薬もあり、投薬には注意が必要です。
また、リハビリテーションなど訓練、療育的サポートも必要とされています。

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